細胞内で時々刻々と変化する細胞骨格やオルガネラの振舞いを取り扱う細胞生物学分野において、顕微鏡画像の評価は基本的かつ重要な研究手段である。従来、顕微鏡画像を評価する場合、研究者の目視に基づく定性的な解釈に留まることが一般的であった。しかし、このような従来法は、(1) 研究者の主観に基づくため客観性に欠け、(2) 多数の画像を評価する場合には人的コストが膨大になるという問題点が指摘されていた。

 この問題を解決すべく、応募者は共焦点顕微鏡画像からアクチン繊維が織りなす複雑な構造を多面的に定量評価・分類する画像解析手法を開発した(Higaki et al. 2010 Plant J)(下図)。本手法は論文発表直後に「Higaki’s algorithm(檜垣の方法)」として国際的に高く評価されており(Khurana et al. 2010 Plant Cell)、本原著論文はこれまでに186件引用されている(Google Scholar 2020年7月現在)。

 当研究室の特色として、植物材料の栽培や蛍光マーカーのコンストラクト構築、顕微鏡観察などの分子細胞生物学的実験(いわゆるウェット研究)と画像解析による細胞骨格構造などの定量評価とデータマイニング(いわゆるドライ研究)の両方を同時に実施していることが挙げられる。当研究室はウェット研究者から画像解析に関する共同研究を数多く依頼されてきた。一般にウェット研究とドライ研究の共同研究を円滑に遂行するためには両者の意思疎通が欠かすことが出来ない。しかし、双方の専門分野の隔たりは大きく、残念ながら共同研究の現場においては互いの要求を正確に理解できずに成果に結びつかないことも多い。その点、当研究室が画像解析支援を行った共同研究においては十分な相互理解が実現し、当該研究領域における成果創出に大きく貢献した(Kutsuna and Higaki et al. 2012 Nature Communications, Hashimoto-Sugimoto et al. 2013 Nature Communications, Kimata et al. 2016 PNAS, Hirano et al. 2018 Nature Plants, Tsai et al. 2018 Mol Plant, Kimata et al. 2019 PNAS, Nagashima et al. 2019 J Biol Chem, Kwon et al. 2020 Bioconjug Chem, Yoshimi et al. 2020 J Exp Botなど)。