私たちの研究室では、単糖分子が鎖状に結合した生体高分子である『糖鎖』の生物学的機能の解析を行っています。糖鎖は、細胞微小環境に応じてその構造が変化する事が知られている一方、出現した異常な糖鎖が疾患バイオマーカーとして利用されています。加えて、細胞での糖鎖合成に異常が生じると、細胞機能の変化が引き起こされ、結果、様々な疾患が惹起される事が明らかになりつつあります。

私たちの研究室では、主に以下の2つの研究を推進しています。

1)糖尿病の引金となる糖鎖異常

膵臓β細胞において発現する糖転移酵素GnT-IVaはグルコースセンサー分子として機能するGLUT2タンパク質に多分岐型の糖鎖を付与します。これによりGLUT2はβ細胞表面に安定的に発現し、結果、血糖に応じたインスリン分泌を可能にしている事を明らかにしました(Ohtsubo K. et.al., Cell, 2005; BBRC, 2013)。また、高脂肪食を摂取したマウスや2型糖尿病患者膵臓β細胞ではGnT-IVaの発現が低下し、これによりインスリン分泌機能が障害される事を明らかにしてきました。これは、膵臓β細胞において生じた高度な酸化ストレスが起因となっている事を突き止めました。一方、膵臓β細胞においてGnT-IVaを高発現するトランスジェニックマウスは、高脂肪食誘導2型糖尿病の発症への抵抗性を示しました(Ohtsubo K. et al., Nat. Med., 2011)。これら事実は、糖鎖及び糖転移酵素が新しい糖尿病の治療ターゲットとなりうる可能性を示しています。

2)がんの進展過程におけるがん糖鎖の機能解明

現在、臨床の現場でがんの診断に利用されている殆どの腫瘍マーカー分子の実体が糖鎖であることが判明しています。私たちの研究室では、患者の予後の不良と強く相関する糖鎖性腫瘍マーカー分子の生物学的機能の解析を進めています。加えて、これら糖鎖合成を阻害する事でがんの進展を抑制できるのではないかというコンセプトで研究を行っています。

これまで、糖鎖を標的とした創薬は一切行われておらず、本研究技術は新しい創薬ターゲットを創出するという点でユニークであり、新規薬剤の開発に繋がるものと考えます(右図)。