本シーズでは、ヒト免疫不全ウイルス1型HIV-1あるいはヒトT細胞白血病ウイルス1型HTLV-1に対する、これまでにない機序の薬剤の開発のためのスクリーニング系を提供する。具体的にはウイルスそのものではなく、ウイルスが細胞間を伝播する過程の阻止を標的とするものである。

 例えばHIV-1では、その増殖阻害の為にHIV-1自身のタンパク質を標的とした薬剤の開発が進められ、大きな成果が得られてきた。一方、薬剤耐性ウイルスの出現軽減に向け、宿主タンパク質を標的にした薬剤の開発も求められている。実際、HIV-1受容体CCR5標的薬剤が開発されており、今後、新たな宿主標的の同定が重要となっている。

 私達は最近、HIV-1が細胞間を伝播して、感染が拡大する過程において、tunneling nanotubes(TNT)と呼ばれる、細長い細胞膜突起を利用することを発見した(J Immunol 2016)。つまり、HIV-1自身がTNTの形成を促進し、それらTNTを介して効率的に細胞間を移動することを見出した(下図参照)。全く同じ機構をHTLV-1でも見出し(投稿準備中)、更にはこれらウイルスに共通して一つの宿主タンパク質M-Secが中心的な役割を果たすことを見出している。以上から、M-Secあるいは関連分子RalAなどを標的にすることで、これまでにはない抗ウイルス薬剤、特に、現在、上記の難治性ヒトレトロウイルスで問題となっている、潜伏感染を阻止する薬剤の開発につながると期待される。 近年、TNTはがん細胞の浸潤や薬剤抵抗性などとの関連も報告されており、効果的なTNT阻止薬剤はがん領域への応用も期待される。