世界では 3,700 万人の HIV-1 感染者が存在、2,100 万人が抗 HIV-1 剤による治療を受けています。また、生涯にわたる治療継続が必要であり、HIV-1 感染症治療薬には世界的な medical needs が存在します。

 現在医療現場で使用されている HIV-1 感染症治療薬は、ほぼ全て HIV-1 の酵素に作用する薬剤であり、このため薬剤耐性 HIV-1 の出現は常に危惧されており、今までに無い標的分子や作用機序を有する薬剤の開発が求められています。

 HIV-1 にとって必須の構造蛋白質であるキャプシド蛋白(CA, 図A)は、HIV-1 粒子内で多数(約1400個)集合する事によりウイルス遺伝子を包み保護する円錐状の殻を形成します(図B、電子顕微鏡像・図C)。


 

 我々は CA の結晶構造データを基に、数百万の化合物データから仮想ドッキングシミュレーション法により、HIV-1 の CA に結合し得る化合物を検索し(図D)、得られたデータを基にして実際に試験管内で HIV-1 増殖阻害活性を有する化合物群を多数同定しました。更に独自の手法により、CA の著明な自己崩壊を誘導する事で HIV-1 の増殖を阻害する、新規機序を持つ複数の化合物群を同定・開発しました(次頁;図E)。更に、同定した CA 自壊誘導化合物が感染細胞内で合成された CA に作用する事に加え、成熟 HIV-1 粒子内に侵入し HIV-1 遺伝子を包む CA 殻にも直接作用する事(図F)、すなわち HIV-1 生活環における異なる段階でその抗 HIV 作用を発揮する事等を、これまで明らかにしました。

 
 

【本技術が従来技術と比較して優れている点】

 本研究は HIV-1 のいわば“本丸”を攻める戦略と言えます。HIV-1 の逆転写酵素の持つ高い突然変異発生率及び HIV-1 酵素群の持つ遺伝子変異への高い許容性により、薬剤耐性株出現の問題が惹起されますが、これに対し我々が標的とする CA は遺伝子的に HIV-1 サブタイプ間でよく保存された領域であり、変異出現への許容性が低く、HIV-1 が耐性を獲得する事は困難であると推測されます。また、これまで海外の他の研究グループから報告された HIV-1 CA 阻害剤において、我々の化合物群との構造的類似性は無く、またそれらは CA 自壊誘導作用を有しないことを我々は確認しています。