1.はじめに

  私たちの研究室では、主に小児の発達について、認知神経科学的な手法を用いた研究を行っております。最近では生涯発達の観点から、高齢者を対象とした研究も進めております。また、発達障害や精神疾患等の臨床研究にも力をいれています。人の発達に関わる様々な様相について、脳機能計測や眼球運動測定などの機器を積極的に用いて客観的な評価を試みているのも私たちの研究室の特徴です。それらの研究のうち、発達障害児を対象とした脳機能研究を紹介いたします。

 

2.ADHD児診断の高感度予測手法の開発

 発達障害の一つである注意欠陥・多動性障害(ADHD)は不注意や多動性-衝動性という行動面の症状で気づかれる発達障害(神経発達障害群)の一つです。多彩な症状を示すためにワガママな子どもと周囲から誤解されやすい一方、学校・職場などの複数の場面での困り感(困っている気持ち)が増強し日常生活活動に強い支障をきたすことが懸念されています。しかし、病気や障害の指標となる決定的なバイオマーカーが未だに発見されておらず、その診断に際しては、経験豊かな専門家による主観的な行動観察にもっぱら頼らざるを得ない現状があります。

 これまでにADHDは大脳の前頭前野を首座とする抑制機能の障害があることが多くの研究により示唆されておりました。私たちは、実行機能のうち抑制に関わる機能を調べる課題(抑制課題)を遂行している際の子どもの行動および前頭前野における脳血流の活動状態の変化(図1)のデータを基に、近年、予測分析の自動化のために実用化の期待が高まっている機械学習アルゴリズムを用いてADHD児の診断を高感度に予測することのできる手法を開発しました(図2)。

 ADHDを含めた発達障害は、加齢とともに精神疾患などの併存障害を伴うことが多いため、早期発見と早期の介入や支援、そして医学的治療が望まれます。しかしながら、簡便な評価方法が確立しておりませんでした。私たちの研究により確立された手法により、これまでにない簡便で客観的かつ高感度なADHD児の診断予測が可能となりました。これらの成果は、臨床現場では診断補助や治療等の効果判定として、学校現場では早期発見のためのスクリーニングとして大きく貢献するものと期待されます。

 これらの成果は、国際誌に掲載され、各種報道機関によってプレスリリースされました。また、日本国特許ならびに米国特許を取得しています。

 

3.おわりに

 以上のように、私たちの研究室では、基礎研究と臨床応用との橋渡し(トランスレーショナルリサーチ)となるような研究を目指しております。子どもはとても不思議でかわいい存在です。発達に興味がある方、脳機能計測などの生理指標に興味がある方などを募集しております。私たちの研究室に興味がありましたら、下記のHPをご覧ください。
HP: http://www.let.kumamoto-u.ac.jp/ihs/hum/psychology
 

 主要な業績