原発腫瘍組織から一部の腫瘍細胞が剥離し、血液やリンパ液の流れに乗り、体内の別の臓器に移動することでがんの転移が起こっている。このように血流に乗って体内を循環している腫瘍細胞は、血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell: CTCと呼ばれている。画像診断では確認されない微細ながんや、CEA等の腫瘍マーカーでは捉えるのが難しいとされる初期フェーズのがん患者においてもCTCが確認されており、有用な診断マーカーとして着目を集めている。しかしながら、血液1 mL中に約50億個の血球細胞が存在するのに対し、CTCは数個数十個しか存在しないためその検出は困難である。

 本研究では、腫瘍細胞に応答して開始されるDNAの鎖交換反応によって、溶液全体が発光する仕組みを構築し、CTCを標的とした簡便で迅速ながん診断への応用を検討した。

 

 代表的なCTC検査法では、まず前処理として何かの手段により腫瘍細胞を血中から捕捉する。その後、3色で免疫染色を行い、顕微鏡像の染色パターンから腫瘍細胞か非特異的に捕捉された血球細胞かを1細胞ずつ判定していくため、結果を得るのに長期間を要し、費用も高額である。一方、本手法では、前処理として腫瘍細胞を捕捉した後は、腫瘍細胞にのみ応答して動作する核酸分子デバイスが自律的に発光シグナルを増幅し続ける(DNAサーキット)ため、溶液にUVライトをかざすだけの操作で目視判定が可能である。測定時間も前処理を含めて2時間30分程度である。将来的には、患者の病態のリアルタイムモニタリング、個人病院やクリニック規模での簡易診断によるがんの早期発見の実現が期待される。