【背景・目的】

 ケトン体は古くから飢餓時のエネルギー基質として知られています。ケトン体が過度に蓄積すると、ケトアシドーシスという重篤な病態をきたすため、医学領域においてはケトン体を貯めることは避けるべきであると考えられてきました。しかしながら、近年の老化・長寿研究において、ケトン体についても病的でない程度のケトン体濃度上昇は、健康寿命の延伸作用などを示すことがわかってきました (Robers et. al., Cell Metabolism 2017, Longo and Anderson, Cell 2022他)。有馬研究室では、ケトン体のどのような作用が健康長寿に役立つものとなるのか、研究を進めています。

【研究概要】

 有馬研究室では、ケトン体を合成することができないマウスを独自に作成しています。加えて、ケトン体を消費することができないマウスも保有しており、両者のマウスを比較して検討することで、ケトン体の持つ多面的な作用 (図1) のうち何が重要であるかを検証することができます。


図1 : ケトン体代謝の多面的作用

 (1)エネルギー基質の供給という働き以外に、βヒドロキシ酪酸 (βOHB) を中心として (2) シグナル伝達因子(3) エピゲノム制御因子としても機能することが明らかとなっています。加えて、有馬研究室ではケトン体合成に (4) ミトコンドリア保護作用があることを発見しました (Arima Nature Metabolism 2021)。

 腹八分は昔から体に良いとされ、近年の炭水化物ダイエットや断食療法などの普及によりケトン体は社会でもひろく注目されています。申請者はケトン体代謝に関する豊富な実験ツールを駆使して、成長・老化の過程で生じるケトン体代謝の変化や、関連疾患に及ぼす影響を明らかにし、正しい情報として社会に還元したいと考えています。