【研究背景】
磁気共鳴画像化法 (Magnetic Resonance Imaging: MRI) は、現代の医療を支える重要な医用画像である。画像診断では、得られた画像から病気の原因となる情報をいかに引き出すかが重要なカギとなる。MRIは、他の放射線等で作成される診断用画像と異なり、携帯電話等で使用されている電磁波を用いて組織の情報を引き出すことにより、従来得られていた医用画像と全く異なる生体組織コントラストをもつ画像を得ることを可能にした。特に、脳の内部は複雑な組織構造を持っており、従来の医用画像ではその細かな構造を描出することが困難だったが、MRIを用いることで、細かな組織構造を描出することができるようになり、多くの病変を細かく観測することが可能になった。
このように、生体組織を高コントラストで区分することができるMRI画像であるが、物理学的には、使用されている情報はまだ一部であるといえる。そこで、我々は物理学的観点から、診断画像としてのMRI画像に新しい情報を加えて、これまで以上に診断に寄与できる画像を作成することを目的としている。また、研究としての一面だけでなく、結果が現行の保険診療可能なMRIで使用可能なように常に配慮した研究を行っている点が、本研究室の特徴といえる。
【具体的結果など】
従来MRIで取り扱われてきた画像は、生体に多く含まれる水分子 (水素原子) の密度や振る舞いに依存するもの (magnitude画像) であったが、MRIが開発されて以来、多くの研究開発によって、今まで以上の大きな改良・発展が望めなくなりつつあると考えられている。そこで、本研究室では、これまで見落とされてきた物理的事実 (理論) を用い、新たな情報を従来の画像に付与する研究開発を行ってきた。とくに位相情報と呼ばれる情報はほとんど使用されておらず、これをうまく取り扱う事で、これまで可視化不可能であった病変や組織まで描出することが可能になる。
先行する技術に、組織の磁化率 (susceptibility) が、位相情報に影響を与えることを利用した磁化率強調画像化法 (Susceptibility Weighted Imaging: SWI) があるが、本研究室では、SWIとは違う位相使用法を開発し、位相差強調画像化法 (Phase Difference Enhanced Imaging: PADRE) として開発を行い、従来法では見ることができなかった組織の描出に成功した。