調査に基づく倫理学の基礎的研究 |
 |
|
|
これまで倫理学は「価値」「評価」に関わるが調査は「事実」に関わっており、両者は相容れないとされてきました。ところが、実際の問題を考察する倫理学では、現場の問題点、科学や技術の現状、法律の現状といった事実に基づく思考をしてきました。
また、そのような倫理的思考を遂行する際には、現在の人々の道徳的直感や倫理観を前提にしてもいます。「調査に基づく倫理学の基礎理論」は、それらを調査解析(統計的手法を用いての)する際の、基本的な諸問題を検討するものです。
この分野は倫理学研究者にとって重要な問題を扱うものですが、内外に研究者がほとんどいないのが現状です。
拙著『自己決定の時代の倫理学-意識調査にもとづく倫理的思考』(九州大学出版会2001年)はその序論的役割を果たしましたが、本格的な研究を現在始めたところです。 |
意識調査を社会的合意形成の基礎に用いることについては多くの批判がありますが、倫理学理論についての深い知識と調査への習熟を兼ね備えた研究者による調査であれば、そのような批判は生じないと考えられます。
社会的合意形成の方法として私は、ジョン・ロールズの提唱した「反省的均衡」が最適であると思います。
その方法が見るべき成果を挙げてこなかったのは、調査のできる倫理学研究者がいなかったことによります。「反省的均衡」を適用する際の最も困難なプロセスは、人々の判断から基礎理論を導くことにありますが、私は、意識調査によってそれを突破できると考えています。
実際に私は、「ヒト胚」の問題等について、「反省的均衡」の適用を試みてきましたが、調査と倫理の基礎理論を踏まえて、それら個別の調査研究を纏め上げる時期に来ています。 |
|

|
[キーワード] 調査に基づく倫理、事実と価値、反省的均衡、社会的合意形成、応用倫理学の方法論 |
|
生命倫理、環境倫理、情報倫理等の応用倫理の方法論を考える上で、調査による解析は不可欠と思われます。
今後、この分野の研究者が増え、互いにデータ交換などが可能になることを期待します。 |
|