スピンコーティングにおけるねじれ境界層の制御

大学院自然科学研究科 産業創造工学専攻 先端機械システム講座
准教授・宗像 瑞恵

URL:http://www.mech.kumamoto-u.ac.jp/Info/lab/navi/indexj.html
E-mail:munekata@gpo.kumamoto-u.ac.jp
研究背景と研究目的
 半導体製造工程において,ウェーハへのレジストの塗布にはスピンコーティング技術が用いられており,近年,ICの微細化やウェーハの大口径化に伴い,より薄くかつより広範囲に均一な薄膜の塗布技術が求められています. 現在は回転数を経験的に低下させて調整することによって均一な膜厚を得ていますが,本研究ではウェーハ上の気流に変化を与えて,より広範囲またはより高速回転での均一な薄膜の塗布の可能性を探っています. これが実現すれば,より大口径のウェーハへの塗布,より薄い薄膜の塗布やより高粘度なレジストの塗布や時間短縮が可能になります.
スピンコーティング技術において着目している問題点
1)外周部の筋
 ある一定の回転数より高速になると,回転円板上にはエクマン螺旋渦と呼ばれる気流流れの遷移現象が現われます. その影響がレジストの乾燥工程において螺旋状の筋をつけます. この現象はある半径位置から発生するため,その半径位置より外周部は基板として使用できなくなります. 実際には筋の発生しない低回転で乾燥させることで回避しています.
2)エッジ付近の膜厚の増加
 ウェーハのエッジ付近ではレジストの揮発速度が異なるために,膜圧が増加して利用可能な面積を減らす結果になっています.
研究内容
 実際のコーティング過程ではレジストの巻き上がりや再付着を防ぐためにウェーハ上方から空気を流してウェーハ外側に設けたカップに排気して飛散したレジストを回収しています. そこで,この排気流やカップ形状を変化させてウェーハ上に形成されているねじれ境界層への影響を調査しています. 現在,可視化実験や熱線流速計による速度場の計測により調査中ですが,今後,画像粒子計測法(PIV)や数値解析なども併用して,膜厚と気流の関係を検討し,カップ形状の開発など半導体製造装置の設計に対して方向性を与えることを目的としています.
ウェーハ近傍概略図




エクマン螺旋渦による外周部の筋


図 [左上]油膜法による可視化 [右上]境界層内流れの遷移現象 [左下]周方向速度分布図
[キーワード] 半導体,スピンコーティング,ねじれ境界層,熱線流速計,LDV,PIV
 熱線流速計およびレーザードップラー流速計による高精度計測により,より詳細な回転円板上の流れの可視化を実現しています. 半導体製造装置のメーカーとの共同研究を主としていますが,ねじれ境界層の層流から乱流まで取り扱う流れ場を対象としているので学術的にも非常に興味深く,その境界層制御に関する研究成果が期待されています.