【背景・目的】

 生体が鉄量を一定に保つ機構を発見し、この制御機構の破綻が肝臓における代謝異常やがんの進展に関わることを明らかにした。この発見を応用し、鉄代謝の破綻によるがんや代謝性疾患の病態解明、および鉄代謝の是正による治療法開発をめざす。

 

【研究概要】

 鉄は生命活動に必須の微量金属であり、遺伝子の転写、翻訳、エネルギー代謝などに関わる酵素の補因子として、広範な細胞活動に影響を与える。一方、鉄の過剰は酸化ストレスを生じ組織傷害を引き起こすため、生体に害をなす。そのため、細胞内の鉄量は過不足が無いように厳密に管理される必要があり、鉄代謝の中心的な酵素であるFBXL5がこれを担う。
 肝臓においてFBXL5が働かないマウスでは、脂肪肝炎の発症や肝臓がんが進展するなどの異常が観察された。また、脳や造血器など、他の臓器においても、鉄代謝の破綻はその臓器機能に様々な異常をもたらすことがわかった。

【病態解明への展開】ヒトにおける鉄の過不足はがんや代謝性疾患、神経変性疾患など様々な病態に関与する。鉄代謝異常マウスを活用することでこれらの疾患の理解と治療法開発が進むものと期待される。
【優位性】鉄代謝においては、鉄量の増減とともに鉄がその価数を2価と3価の間で変化させる動態の変化が最も重要であり、例えば2価鉄の蓄積は肝臓がんを促進するが、3価鉄の蓄積ではがんは促進されないことを過去の研究で明らかにしている。この鉄動態の制御を遺伝学的に行い、鉄代謝の変容と疾患発症の関連解析を可能とするのは我々のマウスモデルのみである。